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「ラヴォス」
2009

コラージュしたネットの画像を出力したアルミ合板をパネルに貼付、その上にアクリル、油絵の具、ペン、ラメ糊、ペンキ、蛍光塗料、携帯用デコシール(スワロフスキー)
F120(1303×1940mm)
2009 トーキョーワンダーウォール賞 受賞


2009年記述
ネットの画像を素材にして画面を構成する作業を続けているうちに元の画像の形や特徴がどんどん刻まれていき、細かくなってきた。1ピクセル単位で刻まれた大きなデータを出力し、その上からなぞるようにして描こうとするとどうしても手のほうが追いつかなくなる。つまり細かすぎてなぞれない。それでもなんとかなぞっていくうちに、奇妙な抽象性と複雑性が絵として出てきた。両側に引き伸ばされて拡散していくイメージは「Untitled」と同じだが、よりフレームに固定され、生々しい画材の隆起を強調し、ゴテゴテとさせた。基底財の処理をプロの看板屋に頼んだので物としての完成度はより高まったが、良くも悪くも人間味は失われたように思う。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ラヴォス
クロノトリガーのラスボスの名前。個人的に、ラヴォスはネオエクスデスほどの意味不明な畏怖感は感じないが、星に寄生するという設定など明確な生態の描かれ方込みでエクスデス以上に確固たる「世界が終わる恐怖感」を演出しているラストボスだと思う。その恐怖感はゲームオーバー時にBADENDとして流れるシークエンスのある人物の「…… ラヴォス……。」というセリフに凝縮されていた。生物として何もできないままただ世界が滅びるのを見つめる視点が提示されていたのは恐ろしかった。ただ名前をつぶやくことしか出来ない。ゲームとはいえ世界が救えない時もあるのだ。クロノトリガーという名作自体についてはもはやここで語る必要もないでしょう。やはりリスペクトです。


2018年に梅沢が書いて展示(ワタリウム美術館)に寄せたテキスト
「ラヴォス」はインターネットやアニメやゲームなどのキャラクター文化に特に耽溺していた時期に制作したものだ。多くのオタクがそうであったように、自分は小学生から中学生くらいにかけては、アニメを見ることに対して独特の後ろめたさがあった。高校生の時は曖昧な時期だったが、正面からそれらを好きだと認め本気で鑑賞し、関連する情報や画像をネットで集めることを始めたのは美大に居た頃だった。在学時代は抽象的な映像作品を作ることを志していたのだけど、途中から挫折して自分の好きなアニメやゲームやネットに現実逃避するかのように本気でハマり時間をたくさん使うようになった。PCのHD内に日々集めた大量の画像達を整理し、好きなキャラ同士を限られたデスクトップの壁紙上で表示するためにPhotoshopで組み合わせ、画像データのサイズがどんどん大きくなっていき、1920pixelが3000、5000、10000、20000pixelとなっていくうちに当時使っていたノートPCの処理が追いつかなくなっていく。最初は冗談のような発想で、「これを作品として発表したほうがいいのではないか?」と考えるようになる。windows(当時XP)のデフォルトの画像保存フォルダの名称である「マイピクチャ」と同名の作品はHD内に保存されたアニメ、ゲームのキャラやいわゆるネットの面白画像からエロ画像、コスプレ写真、政治家の画像、家族写真まで様々な画像を一度自分の手でトレースした絵をスキャンしてまた画像にしたりしてギャラリー壁面を覆い尽くしたインスタレーションだった。色の使い方がわからないのでこの頃は作品がモノクロだった。トレースしたイメージにPhotoshopでコラージュした様々な画像を加えて出力し、抽象的だが風景のようにも見えるイメージをムサビ(武蔵野美術大学)構内のPC室の壁面へ展開したのが「画像の存在証明」という作品だった。ネット上の画像には色が付いてる事が多いので、この頃の作品からモノクロではなく色が付くようになった。また、ネット上の画像の色に反応するように自分でペインティングナイフでアクリルで上から加筆していくようになった。筆を使って描くのでなく、画像の色に反応して色を置いていく感覚を生かすにはナイフのほうが良い気がした。その後壁画やインスタレーションではなくパネルやキャンバスの形態で移動できたり残ったりする作品を作りたいと考えるようになり「画像かわいいよ画像」を制作。その後さらに作ったのが「ネオエクスデス」であり「ラヴォス」なのだけど、この2つは明確にゲームのLAST BOSSの名前から引用し名付けている。「ラヴォス」は特に印象に残っていて、クロノトリガーというスーパーファミコンのゲームで出てくるラスボスの名前。当時小学生だった自分にとって、ドラゴンボールとドラゴンクエストとファイナルファンタジーが合体した最強のゲームが登場した!というような衝撃とわくわくが同時にあり、そのラスボスであるラヴォスは格別な印象を思春期の脳裏に焼き付けさせていた。「天からふりそそぐものが世界をほろぼす」をくらっていたのだ。
インターネット上の画像の圧倒的な情報量、カオスな感覚をなんとか作品化したくて、組み合わせたり上から加筆したり、自分が圧倒されていたゲームのラスボスの名前をつけたりしていた。「ラヴォス」はその中でも画像の刻まれ方と加筆の仕方がブレイクコア寄りのJ-COREの如く細かく刻まれまくって結晶化されたような作品で、しかし、当時聴きまくっていたのはimoutoidでした。影響を受けていたし、影響を与えたかったアーティストです。「ラヴォス」はまた、トーキョーワンダーウォール2009というコンペの受賞作品でもありました。一回くらい何かを受賞したいという気持ちで勢いで応募し制作した、自分の中では珍しい制作動機でした。無事受賞して良かったです。TWWも今はもうなくなってしまいましたね。

2019年7月に梅沢が書いたテキスト
何かテキストを書こうと思っただけどあまりにエモーショナルになってしまったので、テキストを印刷して作品の裏に貼った。